King’s College Hospital訪問記


                                                                                                                                               文責:佐野 仁啓(副理事長・ITエンジニア)


2018年12月初旬、イギリス・ロンドンにある林代表が勤めるキングスカレッジホスピタルにお邪魔し、 胎児健診と胎児治療の様子を見学しました。 私自身一人の息子がいますが、妊婦検診のときは父親は診療室にほとんど入れなかったた め、しっかり見るのは初めてでした。そして、英国における胎児健診・治療を見られたの は、二人目の子を考えている私にとって個人的にもとても糧になるものだと思いました。


さて、胎児健診という言葉は日本ではあまり馴染みがありません。胎児健診とは、いわゆる妊婦健診と異なり、胎児を診ます。つまり胎児の健康状態をチェックしています。

日本では、生まれる前に病気や障がいを見つけることは「出生前検査」と呼ばれ、その是 非が議論をされています。現時点では一般診療として全員に胎児健診を行っているわけで はないため、生まれてから分かる病気や障がいが数多くあります。妊婦健診は主に母体の 健康状態を確認するために行われるもので全妊婦に行われますが、胎児の異常に関する チェックは、妊婦さん自身がどこまで求めるかに大きく依存し、その内容や質も産婦人科 医個人によって変わると言われています。

英国では、2回の胎児健診で数十個のチェック項目を元に、赤ちゃんに特別なケアを必要 とする病気や奇形がないか1時間ほどかけて入念に行います。一回の診察時間が長い代わ りに、超音波検査は妊娠中に二回(初期と中期に一回ずつ)しかありません。

日本の妊婦健診では十数回通い、1回当たりの健診時間は5~10分ではないでしょうか? 待ち時間も考えると、おそらく1回の健診で1~2時間要するので、妊婦さんの精神的負担も大きいですし、(私は男性ですが毎回診られることに抵抗がある方も少なくないと思い ます)、全ての健診に、パートナーと一緒に行くのは難しいようにも思います。 「1-4週ごとに大きさを測ってるから赤ちゃんの成長を感じられるし、エコー写真もしっか りもらえるし、妊娠中に2回だけの超音波検査だと不安」と思うかもしれません。私自身 もそう思ってました。しかし実際に1時間かける「胎児健診」は、5-10分の診察を 複数回繰り返すよりも、体系立っていると感じました。日本の場合は、通常の妊婦健診で の超音波検査をなくすのではなく、それに加えて、胎児ドックを妊娠中に数回加えるという形になるのかなと思います。

少し脱線しますが、出生前の健診(出生前検査)は命の選別につながると言われています が、胎児健診を行うことで生まれる前から病気が分かるので、出生直後から他の診療科と 連携して治療ができたり、家族が準備(制度や利用できるサービスを知る、心構えができ るなど)できるなど、多くのメリットがあります。また、妊娠中にできる胎児治療は、出生後のQOL向上をもたらします。

日本では、胎児に関する健診や治療の一般普及が、諸外国に比べてすでに30年以上遅延し ていると言われています。出生後の治療は可能な限り行っていると思いますが、胎児につ いては「検査」の時点で足踏みをしているように感じます。足踏みをしてじっくり考える ことも大切ですが、それと同時に、生まれるまで赤ちゃんを「診ない」デメリットについ ても少し焦点を当てていかなければならないと思っています。医学が進歩すればするほど、知ることでできることが増えていきます。「知る」ことが安全な選択肢として広く一般に 普及できない理由を考えるとともに、できることから進めていきたいと思っています。

話は戻りますが、この滞在中に様々な診察や治療を見ることができました。「胎児の治療」 と聞いたとき、1人の胎児に対して何人の医療者が治療に当たると想像しますか?

私が見学した治療では、5人未満と非常に少ない人数で治療を行なっていました。そして、 手術台のようなものの上に妊婦さんが横たわって、治療するのかと思っていたら、超音波健診と同じ部屋で行われていました。 医療機器も、大掛かりなものは使っていませんでした。もちろん健診や治療の技術、胎児 科以外にも多くの連携する診療科がある前提ですが、イメージしていた胎児治療とは大き く異なり、想像以上にシンプルで、日本での普及が困難とは思えませんでした。

私は医療者ではありませんが、仮に医療者であれば、目の前の妊婦さんやご家族が安全安 心に出産に望めるのが理想的と考えると思いました。そのために必要な情報は伝えたいで すし、たとえショッキングな情報でも、サポート体制とともに紹介したいと考えると思い ました。

もちろん、当事者でなければ分からない気持ちも多くあります。だからこそ、私たちが目 指す、「診断を受ける前でも受けた後でも『障がい』や『病気』に対して不安な気持ちを 持つ家族をサポートする仕組み」を、1日でも早く構築したいと思いました。