king’s College Hospital訪問

文責:對馬 朱香

昨年12月、妊娠初期と中期の胎児健診と胎児治療を見学しました。私事ですが、私は今、ガーナで助産師として活動しています。ガーナで妊娠初期に行うおなかの触診では、子宮はほぼ触れず、トラウベと呼ばれる装置を使っても、赤ちゃんの心臓の音は聞こえません。妊婦さんたちも、まだ胎動を感じることはありません。このような妊娠初期でも、イギリスではエコー画像で、赤ちゃんの手足の指までをも見ることができます。可愛さを感じるとともに、この時期にほとんどの先天性の異常が分かることは、とても不思議な感覚でした。
 
見学中、臍帯の血管に異常の可能性があるケースが見つかりました。が、コンサルタントに診てもらうと、「今の時点では心配することも、できることもないので、次の中期の健診の時にまた診てみましょう」、という説明がされていました。この頃はまだ、10cmにも満たない小さな小さな赤ちゃん。その赤ちゃんとママをつなぐ細い細い臍帯までもが、しっかりと診れること、診ていることに驚かされました。今回のケースでは、経過観察でもよい状態でしたが、もし赤ちゃんに何か治療が必要な場合、適切な時期に治療を受けられて、赤ちゃんの命を救えることは、胎児健診の大きな意義の1つだと感じました。

また日本では妊娠期間中、内診台に乗って行う経膣エコーを数回行いますが、女性にとっては、あまり気分の良いものではありません。イギリスの妊娠期間中のエコー検査は、妊娠中期の健診でたった1回だけ、それも内診台に乗る必要はなく、それまでエコーを受けていたベッドで行われます。女性にとって、妊婦健診で苦痛となるものが最小限で済むことは、とても良いことだと思いました。

胎児健診は、基本的に2人体制で、1人が診察をしている間に、もう1人が問診や計測値の評価を行っていました。妊娠歴や月経のサイクル、内服している薬やサプリメントのほかに、妊娠方法や妊婦さんの両親の出身地、家族に糖尿病や遺伝性の病気を持った人がいるか、などを聞きます。これにより、妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症など、母親の合併症発症の可能性や、妊娠後期に子宮内胎児発育不全が起こる可能性を評価しています。

ちなみに、多くの妊婦さんはパートナーと一緒に受診していました。パートナーが同席している中での問診よりも、個別で聞いた方が、より妊婦さんのプライバシーに配慮でき、正確な情報が得られるのではないかと感じました。

胎児治療では、胸水で心臓が押しつぶされてしまっている赤ちゃんに、シャント術と呼ばれる、胸水を羊水腔に出す治療を見学しました。素人目でも、治療前は心臓が圧迫されているのが明らかでしたが、治療後は心臓が正常なサイズで元気に拍動しているのがわかりました。

他にも、双子へ供給される血液のバランスがよくない時に行うレーザー治療を見学しました。胎児鏡と呼ばれる装置を使っての治療で、お腹の中の様子が映し出された状態から、吻合血管と呼ばれる血液供給のアンバランスの原因になっている血管を焼灼していました。

胎児鏡の映像では、羊水にプカプカ浮かぶ胎児の足の指や羊膜が見え、胎児がヒトとしてしっかり成長していることに感動しました。一方で、お腹の中で生きている赤ちゃんをカメラ越しに見えることに驚き、不思議な気持ちになりました。色々な感情が混ざり合いましたが、かつては手を出せなかった領域に医療が入り込めるようになったことをポジティブな感情で捉えられたように思います。 

見学中、海外から治療を受けにくる妊婦さんが、飛行機の遅延で治療開始が夜中になる、という状況にも遭遇しました。「胎児が緊急を要する状態かもしれないけれど、来て診察してみないと分からない。だから夜中でも診察をして必要ならばすぐに治療をする」と、ニコライデス教授は言っていました。胎児治療を行う医師たちの「救いたい」という強い気持ちに目頭も胸も熱くなりました。
 
ところで、前回と今回とで、何名かのフェローと話しましたが、林について、このように語っていました。
「Dr.ノブの診察は、他のフェローと比べても群を抜いて素晴らしいものだ。まずは、カップルを落ち着かせ安心させる雰囲気づくりができている。それは診察室に入って来た瞬間とその後のカップルの表情の違いから明らかだ。

Drノブは健診中、診た情報を妊婦さんにいつも丁寧に伝えていて、『赤ちゃんは元気かな?』と心配し、赤ちゃんの健康を願う家族にとって、安心できる。暗くシーンとした部屋で、長時間横になってお腹を出して診察を受ける妊婦さんにとって、Dr.ノブと話す時間は、楽しく穏やかで幸せな時間になっていると思う。たとえ赤ちゃんに何かが見つかったとしても、ひとつひとつ丁寧に診てくれていると感じる医師からの説明は、耳に入りやすいはずだ。目を見て向き合って、分かりやすい言葉で丁寧に伝えることは、簡単なようで難しい。これをDr.ノブは、たんとやってのける。

妊婦さんたちは帰り際、Dr.ノブに握手やハグを求めている。診察のわずか数十分で、これだけの信頼を得られるのは、本当にすごい。他のフェローの診察のときには、このような光景は見たことがない。私たちもDr.ノブのような人になりたい」

みんなが口をそろえてほめ称えていました。妊婦さんたち家族からだけではなく、同僚たちからの信頼もあつく、尊敬され愛されていることを感じました。世界中の人から認められ愛される医師と出会え、また日本で一緒に活動できることをとても幸福に感じました。

後日談ですが、異国の地でのコミュニケーションについて林はこんなことを言ってました。

「イギリスで診療を始めて最初の2ヶ月くらいは、アジア人差別があるのかと思ってました。最初にHelloと言って自己紹介をしただけで、他の医者に替えてくれと言われることも日々ありました。でも徐々に英語が話せるようになって、知識も技術もついてくると、診察中の短い時間に信頼関係を築けるようになった気がします。次回も指名したいから外来日を教えて欲しいと頻繁に言われるようになったし、お産後に赤ちゃんを見せにわざわざ病院に来てくれたり、インターネット上で高評価されているのをみたり、留学開始当初じゃ考えられないほどに受け入れてくれたように感じました。面白いのは、3年前に会った妊婦さんも1年前に会った妊婦さんも、 ”はじめまして” の関係であるということ。Helloの時点で懐疑的な目になられてたのは、人種差別じゃなくて、Helloの発音がおかしかったり、そのときに自信なさそうな表情をしてたからなのかな、と今は思います。医学だけじゃなくて色々なことを学ぶ留学でした」