Fetal Medicine Foundation 視察報告(2018/10/23-28)

昨年10月、一緒にFMFを見学をした日本人の小児科医の感想を頂いたので、許可を得てここに掲載します。

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FMFは、胎児医療の創始者の一人であるKypros Nicolaides先生が代表の、イギリスで胎児医療の発展と普及に貢献しているNPOです!20年以上の歴史があり、30億円以上の助成金と、胎児クリニックなどの収益によって胎児医療に関する臨床研究、医療技術開発を行なっています。日本ではちょっと考えられない規模ですよね。
FMFには胎児科医がたくさんいます。胎児科とは、お腹のなかの赤ちゃん(胎児)の診断と治療を専門とする分野です。出生前検査と胎児医療を学ぶために、ヨーロッパ中から胎児科医が勉強にやってきています。ヨーロッパ外から来ている医師は少なく、そのうちの一人が林伸彦先生です。

イギリスでは、出生前検査のイメージは日本と大きく異なると思います。日本で出生前検査と言えば、新型出生前検査(NIPT)、絨毛検査や羊水検査など、個別の検査を思い浮かべるかもしれません。しかし、イギリスでは、お腹の赤ちゃん(胎児)について妊娠初期から健診(スクリーニング)を行い、さらにハイリスクの胎児に対して適切な追加検査を選択していく過程全体を出生前検査と呼びます。

妊娠11–13週で、ほとんどの妊婦さんが胎児に関する超音波検査を受けているとのことです。そこで胎児の脳、心臓、手足などから、へその緒、胎盤の状態までチェックされます。そこで、様々な異常について診断や、リスク評価がなされます。出生前検査というと、ダウン症の検査、というようなイメージがあるかもしれませんが、この検査はダウン症に限らず、生まれつきの心臓の病気や、脳の病気など、あらゆる病気を対象としています。必要があれば、妊娠20週と36週にも超音波検査があります。

ここで、ダウン症についても述べなければなりません。日本ではNIPTのみで胎児がダウン症である確率を告げられることが多いかもしれません。FMFでは、まずお母さんの年齢といった背景によって決まる検査前確率を出し、それから超音波検査で首の後ろの膨らみ(NT)、鼻骨、その他の関連する項目を評価して計算し、胎児がダウン症である確率を算出するそうです。そして、ハイリスクの人たちには、NIPT、絨毛検査、羊水検査などの追加検査を医師が適切にオファーしていくとのことでした。なので、NIPTは精度の高い検査ではありますが、それのみに頼るのではなく、その他の因子も考慮して確率を計算することで、精度は飛躍的に変わります。

実際に、妊娠11-13週、そして20週前後の胎児超音波スクリーニングを見学させてもらいました。先述のように、スクリーニングで扱う異常は21トリソミーや18トリソミー、13トリソミーだけではありません。手足が無い子や心臓の異常がある子、脳の発達に異常がある子、双子で一方が小さい子、横隔膜という筋肉が充分に形成されておらず、肺のあるべきところにお腹の臓器が上がってきてしまっている子など、様々な子どもたちを見つけていました。一言でいうと、日本では妊婦健診でたまたま見つかるような赤ちゃんの異常が、イギリスでは系統立てて早期に見つけられていました。1つの胎盤を共有している双子の赤ちゃんで、一方の赤ちゃんが余分に血液をもらい、他方はもらう血液が少なくなる病気(双胎間輸血症候群)など、治療ができる病気に関しては、胎児診療科の医師たちが治療を行なっていました。

日本では、胎児のスクリーニングは行われていません。日本でも、胎児についての治療は行われており、一部のものについては成績も良好です。しかし、異常を見つける仕組みがないから、宝のもちぐされになっている、と今回の見学で思いました。

さて、赤ちゃんに異常が見つかった場合、中絶を考える家族は当然います。中絶についてもイギリスと日本の違いを感じました。日本では胎児の病気があっても、それを理由に中絶することは法律で認められていません。しかし、実際には希望した人がNIPTをはじめとしたいろいろな「出生前検査」を個別に受け、胎児に異常があったら中絶をする、ということが広く行われています。

イギリスでは、妊娠24週未満まで赤ちゃんの異常が理由で中絶を選択することが認められています。さらに、妊娠24週以降でも、赤ちゃんが生まれてからすぐ死んでしまったり、すごく重い障害を持って機械に頼りながら寝たきりで生活することが明らかな場合は、中絶を選択することができます。

では、イギリスでは胎児の異常があればどんどん中絶する、優生思想が普及した社会なのでしょうか?イギリスだけでなく、胎児のスクリーニングを行なっているヨーロッパ諸国も優生思想に基づいた社会なのでしょうか?そう考えるのはあまりに短絡的です。ヨーロッパは第二次世界大戦でナチスドイツの優生思想を痛いほど経験した地域です。

日本のように、全出産の半数以上がクリニックなどの小規模医療施設で行われ、胎児スクリーニングの基準がなく、個々の医療機関の裁量で独自の「出生前検査」が行われていれば、病気についての充分な情報提供がなく、異常を指摘される時期も様々で、家族は不安なまま中絶を選択することが多くなるでしょう。それに、中絶自体が病院の利益になるので、中絶を積極的に行うクリニックも出てきていることでしょう。

イギリスのように、ある程度統一された基準を基に妊娠初期から胎児の異常を拾い上げると、胎児期から治療できる病気は治療し、治療ができないか、出産後にも障がいと付き合わないといけない異常に関しては、生命予後や、機能予後、受けられる社会的サポートなどについて情報提供がなされ、繰り返しのカウンセリングがなされます。その上で、産む、産まないの選択がなされます。産まない選択をした場合は、お別れに臨み、そこから立ち直るための精神的、霊的ケア(グリーフケア)もなされます。

つまり、イギリスでは、障がいについて納得し、十分に準備をした上で出産、もしくは中絶に臨める社会なのです。日本のように、妊婦健診で突然異常を指摘され情報もないままに不安なだけで中絶したり、出産まで胎児の異常が分からず赤ちゃんのサポート準備が全く整わない状況で産んだり、といったことが起こっている社会とどちらが成熟しているでしょうか。

なぜ、日本で胎児のスクリーニングが広まらないか考えさせられました。胎児のスクリーニングによって胎児の異常を早めに見つけると、より多くの命の選択につながる、と思われているのかもしれません。しかし、胎児の異常を見つけることができる医療技術があるのに、それを未だに制度化しないこと自体、日本の医療者の態度の未熟さを表している気がしました。

日本では出生前に限らず、患者さんに病気が見つかったとき、何を伝えればいいか、どの治療を選択すればいいか、どこまで治療するかを医療者が悩んでいる場面が多い気がします。しかし、生まれ育った環境の異なる他人が本人の価値観を共有することは、たとえ一卵性双生児であっても不可能なはずです。本来は、本人が必要とする情報を与えて、本人たちが納得して判断を下すことが理想です。もちろん、本人たちがどんな情報が必要かわからない場合や、本人たちが感情的になっており情報を受け付けなくなっている場合があります。その場合は、状況把握の手助けとなるカウンセリングなどで支援するべきです。

1日でも早く日本で胎児医療が普及し、救える命がちゃんと見つけ出されるように、そしてそれぞれの家族が納得のいく選択をし、必要なサポートをみんなが受けられる社会となるように、鋭意努力したいと思いました!